「誰から買うのか」 書なし車の話

以前、「書類のない旧車を買う前に注意したいこと」という記事を書きました。思いのほか検索にひっかかっているようで、書なしの旧車に興味のある方が多いなという印象を受けています。

そういった方にとっては耳にタコかもしれませんが、私自身は書類のない旧車の書類を起こして登録し、公道復活したい場合に必要なことはやはり『前の所有者のご協力を得ること』だと考えます。また、『誰から買うか』は本当に大切だと強く思います。今回は、その理由をお話していきたいと思います。

「自己完結ができない」その理由

実際にご相談があった件

以前、書なしの旧車の書類起こしについて相談されたことがあります。その車両は中古車販業者から購入されたものだということ、その前におふたりオーナーさんがいらっしゃったことを確認しました。車検証はその中古車販売業者が紛失されたということで、まずは車検証を再発行しようということになりました。

もっとも、この時点でご相談者さまからうかがっていた内容と私が認識していた内容に大きな溝がありました。自分自身、聞き取りが足りていなかったことは完全にミスでしたので、大いに反省すべきことだと今でも感じています(なお、念のために申し上げますが、このケースに関して報酬はいただいておりません)。

陸運局にて

以下の2点を踏まえ、まずは登録事項証明書を取得することにしました。

  • 車検証の再発行は管轄の陸運局でしか受け付けていないこと(相模ナンバーではありません)
  • 古い車なのでまずは「登録事項証明書」を取得して内容を確認すること(どの陸運局でも可能)

陸運局の窓口で登録事項証明書の取得の申請をすると、窓口の担当者から「職権抹消されているので、データが出せません」と、言われてしまいました。そして、その旨を記載して提出しなければならない書面を受け取りました。

そこで私は『所有者は○○さんですか?』と質問してみたところ、そうですと確認していただけました。『○○さん』は以前のオーナー様であることは知っていたのですが、同時に所在が不明であるとも聞いていました。

そのため、陸運局からは「所有者の方と連絡を取ってください。もし亡くなられていた場合はご家族に相続手続きをしていただいたうえで職権抹消を取り消してから再度書類取得なさってください。うかがったお話の内容から、本件は不審案件扱いになります」と言われてしまいました。

「連絡が取れない!」『どちらも!?』

いったん事務所に持ち帰り、相談者さまに問い合わせたところ驚愕の事実が判明しました。車検証上の所有者がすでに鬼籍に入っていたのです。そして、所有者の関する情報はほぼ存在せず、ご家族の所在も一切不明ということでした。鬼籍に入ってしまった場合は、ご家族に相続の手続きをお願いする必要があります。

つまり、

  • 車両を購入した先の中古車販売業者が名義変更(移転登録)をしないまま20数年放置していた
  • 車検証上の所有者に関する情報が一切ない
  • ナンバーだけが実在し、車検証は紛失

という状態であることがようやくわかりました。

相談者からは「ご家族を探せませんか?」と言われたものの、何の情報もありませんでしたし、私は探偵でもありません。本籍地がわからないため、戸籍の取得(職務上請求)も困難でした。そのため、中古自動車販売業者の方に購入の経緯やわかることをお伺いしようと電話をかけましたが、対応していただくことはできませんでした。

今回の業者の方は、売買後のことは関係ないという立場だったのかもしれません。しかし、もともと車検証を紛失したままで車両を販売していたことや、名義変更もしていなかったということは大きな不備だと感じました。また、そういった事情をしっかり把握せずに購入してしまうということも危険なことだと思います。

超重要なのは「誰から買うか?」

先に述べたケースでは、結局売主の協力をいっさい受けることができない状態でした。本来、前の所有者の協力を得て、書類を集める必要があります。そのうえで名義変更をおこなうのが基本です。前の所有者の協力あってこそです。購入をする前に必ず確認しておくべきことは、

  • 前の所有者と連絡が取れる状態にあるか
  • 前の所有者に書類起こしの協力をしていただけるのか

といった点は重要になってきます。前に述べたケースのように、売主が「売ったらもう関係ない」という態度に出られてしまえば、もうどうすることもできません。「書類のない車」として購入してしまったのであれば、あとになって『書類がないならいらない』と契約を解除することは難しくなります。

車検証に記載されている所有者と連絡がつかない場合や、協力を得られない状態での書類のない車両については、基本的に部品取りの車両として手に入れるべきではないかと考えます。

登録している自動車は…

登録された自動車は、登記された不動産とほとんど同じ扱いになります。登録された情報がすべてです。大きな買いものをする前に、「誰から買うか?」を見定めることはとても重要です。

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